【飛騨高山ウルトラマラソン】サブ10を目指した100kmと仲間の声

大会記事

みなさんこんにちは。

ラン歴12年のみつ @hiroki.mitsunaga(3:09:28)が2025/6/8に開催された飛騨高山ウルトラマラソンに参加してきました。

目標は去年の自分超え(11:41:38)とサブ10(10時間切り)。

去年の自分に勝ちたい。

あの高い壁を、今度こそ越えてみたい――。

去年の高山ではサブ10を意識して走ったが40kmですでに4時間オーバー。

壁は高かった。

あれから一年。

自分は成長しているのか?

それを確かめるため、再びこの舞台に戻ってきました。

ウルトラでサブ10を目指している人にはとても参考になる内容だと思います。

レース内容をすぐに読みたい方は

「6.スタート」からご覧ください。

長文になりますが最後までお付き合いいただけたらうれしいです。

飛騨高山ウルトラマラソン】レース動画(Instagramリール)

この記事を執筆している筆者の簡単なプロフィールになります。

現在の目標はマラソンサブ3。

アシックス大好きランナーでもあります。

  • 34歳(はじめは10km走れない状態)からランニングを始め現在46歳
  • 初フルマラソン5:35:29(2015) 名古屋アドベンチャーマラソン
  • フルマラソン3:09:28(2025) 京都マラソン
  • ハーフマラソン1:27:20(2024)東京レガシ―ハーフマラソン
  • 10km39:27(2023) 刈谷市かきつばたマラソン
  • 100kmウルトラマラソン完走10:24:26(2025)チャレンジ富士五湖
  • 118kmウルトラマラソン完走14:32:45(2023)チャレンジ富士五湖
  • 100kmトレイルランニング完走24:05:29(2024)志賀高原100
  • 100マイルトレイルランニング完走44:15:44(2024) Mt.FUJI100
チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン2025 100km
筆者 Mt.FUJI100 2024 100マイル

結果

完走証

飛騨高山ウルトラマラソン100kmの結果になります。

記録 11:09:47(ネット)  ※去年より31分51秒PB更新

スタート時はサブ10を狙っていた。

去年は40kmであっさり撃沈したので、今年は最低でも40kmまでは4時間切りを目指した。

40kmの通過タイムは3時間55分34秒。

まぁまぁいい感じ。

でもこのペースでずっと押し切るのって無理じゃない⁈

結局60kmでサブ10の貯金はほぼゼロに。

ここからは「高山のコースベスト」を目標に。

しかしウルトラマラソンはそんなに甘くない。

千光寺の坂を下り終えた辺りで、なにかがプツンと切れた。

体が重くなりジェルは喉を通らなくなり、「あれ、これゴールできる?」という不安が急上昇。

それでも歩みを止めることだけはしなかった。

苦しくても進む。

遅くなっても止まらない。

最後は、気持ちも体力も出し尽くしてゴール。

サブ10の夢は叶わなかったけど去年より31分以上も縮めた自分に、少しだけ「よくやった」と言いたくなった大会でした。

完走時のラップタイム

こちらは10kmごとのラップタイムになります。

高山ウルトラ100kmは前半より後半の方がコースがきつくなっています。

10kmラップタイム

50km以降は貯金を切り崩していく展開に。

60km過ぎの千光寺の坂。

70kmから続く直線フラットコース。

90km手前のラスボス坂。

ここをうまく走り抜けるかが鍵になってきます。

難易度

飛騨高山ウルトラマラソン100kmの難易度を私が今まで参加した大会と比較してみました。

年により気候条件が違うのはお許しください。

※あくまで私個人の感想になります。

(1が優しい、12が厳しい)

大会名難易度特徴
Mt.FUJI 100 100マイル12累積標高7039m
志賀高原100 100km10ゲレンデ・制限時間26時間
奥信濃100 100km9制限時間が21時間
ONTAKE10087月なので暑い
野辺山ウルトラマラソン100km8超激坂と日中の暑さ
富士五湖ウルトラマラソン118km7基本平坦で走りやすい
丹後ウルトラマラソン100km7とにかく暑すぎる
飛騨高山ウルトラマラソン100km6坂が多くて暑い
富士五湖ウルトラマラソン100km5基本平坦で走りやすい
OSJ新城トレイル32km4アップダウンが厳しい
比較表


これまでに走った富士五湖・野辺山・丹後と比べると、高山ウルトラは完走しやすさで言えば「上から2番目」だと思います。

一番走りやすいのはやっぱり富士五湖。

一方、野辺山や丹後はコースの厳しさや天候によって難易度がグッと上がります。

高山の開催時期は6月。

晴れて暑くなるとかなり消耗しますが、曇りで涼しいと一気に走りやすくなります。

この大会のポイントは「50kmから」。

ここからが本番と言ってもいいくらい一気にきつくなるので、前半はできるだけ抑えて体力を残しておくのが◎です。

左上:富士五湖、右上:丹後、左下:野辺山、右下:飛騨高山

前日移動

ひるがの高原SA

8:00

自宅を出発。

途中ひるがの高原SAでひと休み。

ここに来たら欠かせないのが名物のソフトクリーム。

濃厚なのにさっぱりしていて、やっぱり絶品でした。

ゼッケンなどは事前に郵送されてくるため受付の必要はないのだけど、「雰囲気だけでも」と飛騨高山ビッグアリーナへ足を運んだ。

コースマップと大会ボードを前にすると、やっぱり胸がざわつく。

「ああ、来たんだな」って。

その後は車を停めて、高山の街をぶらぶら散策。

飛騨国分寺では樹齢1200年の大イチョウに圧倒される。

完走祈願を済ませると古い町並みへ向かった。

ソフトクリーム
飛騨高山ビッグアリーナ
飛騨国分寺
大イチョウ

古い町並みでは、ラン友さんとの再会がいくつもあった。

旅先での再会はいつもより少し特別に感じる。

会話と笑い、そして熱々の飛騨牛コロッケ。

そのひとつひとつが、明日への力になる。

15:30

宿は「AYUN高山セントラルホテル」

駅近、温泉、コスパ良しの三拍子がそろったランナーに優しい宿。

部屋に入ると、まずはレースの準備。

準備が終わると、ベッドにごろん。

明日を想いながら、ほんの少しだけ目を閉じた。

古い町並み
飛騨牛コロッケ

今回用意した補給食はこちら↓

補給食

使わなかった補給食↓

余り

16:30

夕食はいつもの「ちとせ」へ。

高山に来たらここ、というほどの定番。

注文するのはもちろん焼きそば。

安定の美味さ。

過去3回高山ウルトラを走った時もこのお店。

ボリューム満点。

大盛りは要注意(昔、やらかした)

今回は普通盛りでお腹も心も大満足。

20:00

就寝。

あとは、寝るだけ。

早く寝なきゃ、と思えば思うほど目が冴える夜。

どうか一秒でも早く眠れますように。

Screenshot

当日の朝

1:45

起床。

ちゃんと寝たのかな?

よく分からない。

ずっと目は閉じていた。

でもなんとなく記憶はある。

夢は見てない。

寝てたフリ選手権なら優勝できる自信がある、笑。

2:00

朝ごはんはおにぎり2つ、味噌汁、昨日のちとせの焼きそば。

とにかく食べないと。

ウルトラは“空腹では走れない競技”だから。

食欲?ない。

口?動け。

寝ぼけながらモグモグしていると全部食べ終えていた。

2:30

身支度タイム。


・ファイテンパワーテープ
・ニーダッシュ
・日焼け止め(トップアスリート)

私の三種の神器。

この3つがないと走れない。

ていうか、もはや精神安定剤になっている。

貼る、貼る、塗る。

戦う準備は整った。

3:00

ホテルを出発。

いざ、100kmの旅へ。

朝ごはん
ファイテンパワーテープ
ニーダッシュ
日焼け止め(トップアスリート)

3:10

まだ夜なのか朝なのか、どっちなんだっていう時間帯。

高山駅のバス乗り場に到着した。

なおさん、ひろよさんと合流して列に並んだ。

並び始めて2分。

え、もう乗れるの?

待ち時間はほぼなし。

予定よりスムーズすぎて逆にちょっと不安になった。

本当は大会駐車場を使う予定だったけど、ホテルが駅に近くて「これ高山駅のほうがラクじゃない?」って。

臨機応変も大切。

3:25

早朝の飛騨高山ビッグアリーナは、神聖な雰囲気を放っていた。

4時にラン友さんたちと合流する。

あまり時間がないので荷物を先に預けるため体育館へ向かった。

ゼッケン下一桁の番号ごとに自分で置く形式。

間違えないよう番号を2度確認した。

ボードの前で写真を撮りたくて列に並んだ。

でも、なかなか進まない。

時計を見る→列を見る→時計を見る、の無限ループに突入すること数分。

やっとのことで撮影が終わると、徐々にスイッチが入ってきた。

ゴールゲートへ向かう途中、まさかの奇跡が起こる。

田中くんとくみさんだ。

「うわ、ここで会えるとは!」

気づけば「ナイスラーーーン手拭い」を掲げて記念写真。

私たちのテンションは一気に急上昇⤴した。

こういう出会いがあると、ウルトラってやっぱり“人の物語”なんだって思う。

結果とかタイムとかまだ何も始まってないのに、なんだか一つご褒美をもらったような気分だった。

集合時間1分前、ゴールゲート前に到着したときにはもう人の輪ができてた。

「集まってーーー」の声に、吸い寄せられる人たち。

走る理由は人それぞれでも、いまだけは全員がひとつになっている気がした。

集合写真

4:10

トイレに行くか、行かぬか。

どうしようか考えるが迷った時点でもう行くと決まっているのだ。

スッキリさせたいに決まっている。

列の最後尾についたが、ここからが運まかせの儀式。

進むときは順調に進むくせに、ひとたび止まるとピクリとも動かない。

スタートまで残り20分。

祈るような気持ちで列に並ぶ。

私は空に向かって念じていた。

どうか、間に合え……。

4:25

トイレから出てきた私は、ダッシュでスタートゲートに向かった。

仲間がいるところに飛び込むと、グータッチしてエールを交わす。

「がんばろう」

そのひと言が、気持ちをスッとひとつに結んでくれた。

ここまできた。

あとは、走るだけだ。

スタート~20km

4:30

第一ウェーブがスタートした。

東の空がわずかに明るみ始めていた。

田中くんと大見さんが「いってらっしゃい」と手を振ってくれる。

背中を押されるように、私は走り出した。

目標は去年の自分を超えること。

そしてサブ10。

この先に何があるのか誰もわからない。

ただひとつ確かなのは、今、私は走り始めたということ。

高山市街地を抜けると古い町並みへ。

いつもと違う時間が、静かに動き出した。

ボケボケ
ボケボケ
ボケボケ

5.9km

最初の給水所はけっこう混んでる。

迷いなくスルー。

大丈夫、まだ水はいらない。

するとスタートで一緒だったひろよさんと合流。

今日は、何度もこうやって会えそうな気がした。

ウルトラって、そういうものでもある。

8km

5:16

岡崎さんに出会う。

他の大会でもよくレース中会えるけど、こうして並走できるのはやっぱりうれしい。

朝の空気は澄んでいて、ひんやり心地いい。

田植えを終えたばかりの田んぼに、山の稜線がくっきり映っていた。

日本昔話みたいな風景がたまらなく美しかった。

10km

5:29(スタートから59分)

流れに身を任せていた時間はこの辺で終わり。

ここからは自分のレースをつくっていく。

ひとつ上へギアを入れる。

ここからは山の峠道を走って行く。

登る。

けっこう登る。

まだ登るの? ってくらい登る。

呼吸が乱れないよう抑えているつもりだけど、これで合ってるのか?と不安になる。

速すぎるのは怖い。

でも遅すぎるのも怖い。

もう信じるしかないのだ、自分の感覚を。

エイドでオレンジを2つ食べた。

ひんやりした果汁が喉を潤す。

ここで富士五湖で一緒だったなおとさんと再会した。

言葉はシンプル。

「頑張りましょう」

でも、こういうときの一言ってやたら沁みるんです。

美女高原の看板が現れた。

標高が高いからか、空気がちょっと冷たい。

でも寒くはない。

走るにはこれくらいが一番いい気温。

完璧な気候だった。

18km

下り基調なので自然とペースは上がり、キロ5を切ってる。

いい感じに走っていると水を張った田んぼが目の前に広がっていた。

田植えしたての苗がビシーッと並び、水面には山の稜線が映っていて。

まるで自然が描いた絵画のようだった。

20km

6:24(スタートから1時間24分)

サブ10だと、6分の貯金。

できればもう少し欲しかったけど、まあ悪くない。

とにかく焦らない。

リラックス、リラックス。

頑張るな、楽しめ。

自分に言い聞かせた。

だってウルトラは、苦しいだけじゃ走れないから。

楽しまなきゃやってられない。

20km~50km

20km

太陽がゆっくりと雲の隙間から姿をのぞかせていた。

もう少し曇りでいてくれ。

太陽の日差しは体力をじわじわと奪ってくるから。

現在25km。

空はすっかり晴れ渡り、太陽がまぶしく照りつけてきた。

人影がアスファルトにくっきりと映っている。

ああ、これはまずい。

ピーカンだけはやめてくれと祈った。

26.6km

道の駅ひだ朝日村のエイドに到着。

おにぎり、火畑そば、よもぎうどん。

炭水化物のドリームチームだ。

自分が欲しいものが全てあった。

温かくて、やさしい味。

全部うまい。

胃も心も満たされる。

さて、そろそろ行くかと思った時、

「みつくん、ファイト!」

TRRの半澤さんの笑顔と声援に、不意打ちの元気注入。

ありがとうございます。

パワーいただきました。

29km

ひろよさんを発見。

また会える気がしてた。

これウルトラあるある。

でも、返ってきた言葉は「よくない」の一言だった。

えっ?

どうした?

サブ10を一緒に目指すって言ってたのに。

「ちょっと無理かも」

「DNFするかも」

重たい言葉が、静かに響いた。

心配で、胸の中にモヤが広がる。

けど、どうすることもできない。

「無理だけはしないでくださいね」と言い、少し並走したあと前に出た。

それしかできなかった。

こういう時が一番つらい。

頼むから復活しますようにと願った。

30km

7:20(スタートから2時間50分)

時計の数字を見て、とりあえずほっとした。

サブ10ペースだと10分の貯金。

けれどまだ安心はできない。

むしろここからが本番だ。

この先にはコース最高地点、標高1010mの峠道が待っているから。

ペースも落ちる。

キロ7分台だって珍しくない。

でもいい、一歩ずつ自分のレースを走っていく。

35.6km

走り乃神社エイドに到着。

最初に飛び込んできたのは湘南エナジーゴールドの文字だった。

ちょうどエナジーチャージしたいと思っていた頃。

マイカップに注がれた黄金の液体をゴクリ。

あーーー、うまい。

体の隅々まで染み渡る。

横にはリンゴジュースとトマトジュース。

ここは迷わずリンゴ一択。

優しい甘さが口の中に広がった。

ゆっくりしたい気持ちはあるがそうも言ってられない。

時計は止まってくれないから。

自分に鞭を入れ、再び走り出した。

38km

坂が急すぎて笑えてくる。

傾斜はきつく、視界の中に地面しか映らなくなる。

ペース表示はキロ9。

これはもう、走っているのかどうかすら分からない。

歩きたい。

何度もそう思った。

でも歩きたくない。

ウルトラマラソンでは必ず訪れる瞬間。

「ゆっくりでもいいから止まりたくない」

そう自分に言い聞かせながら、前傾姿勢で一歩ずつ登っていく。

ここは気持ちとの勝負。

気を抜いたら一瞬で歩いてしまう。

いける。

粘れる。

もうちょっと。

ポジティブワードを連発することで、自分を支えていた。

39km

ようやく登り切った。

少し歩いたけど、ほぼ走り切った。

小さな達成感。

その積み重ねがほんと大事だし、ウルトラマラソンの醍醐味なんだと思う。

40km

8:25(スタートから3時間55分)

サブ10の貯金は5分。

去年はこの地点で4時間5分だった。

今年は違う。

去年より10分短縮している。

自分の成長を少しだけ感じていた。

「標高1010m」の看板を見つけると、思わず写真を一枚。

最高地点に立つとやはり気持ちも高まる。

ここからは下り坂。

でも油断は禁物。

スピードは出そうと思えば出せるけど、それで後半潰れたことが何回もあるから。

だから私は慎重に走る。

「豆腐を上から踏んでも潰れない着地」をイメージする。

実際は無理な話なんだけど意識するだけでも違うのだ。

笑われるかもしれないけど、意外と効くんです。

42.195km

フルマラソン1本分を完走。

タイムは4時間36分。

残りはフルマラソン1本ともうちょっと。

まだ先は長い。

ここからは自分の中で小さなゴールをたくさん作っていくこと。

それを何回もクリアーしていく感じ。

「あと500mだけ頑張ろう」

「次の電柱まで頑張ろう」

「30歩歩いたら次の30歩は頑張ろう」

その積み重ねで前に進んで行く作戦。

こういう地道なことの繰り返しが前進する力になる。

あれ?

下の方から誰かが駆け上がってくる。

……うそでしょ?

目を凝らす。

いや、間違いない。

イツメンの田中くんじゃないですか!

応援に来てくれているのは知っていた。

でも、もっと後半、しんどさMAXの場面で現れると思っていたから完全にノーマーク。

びっくりした顔と、嬉しさがにじんだ顔。

どっちが先か分からないけど、気づいたら笑っていた。

はるばる、愛知から高山まで。

ただの応援じゃない、その心意気に胸が熱くなる。

並走してもらい、会話を交わした。

それだけのことなのに、張り詰めていたものがすっとほどけていく。

ずっと、一人で戦ってきた。

タイム、ペース、自分の足音と会話し続ける数時間。

その孤独が、ふいに終わる瞬間。

ウルトラの最中に訪れる「会話」というひとときが、

これほどまでに体と心に効くなんて。

脳がにっこり微笑んでいる。

脚がリズムを刻んで踊っている。

ああ、この感覚。

このままどこまでも走っていけそうな気がした。

45.5km

8:54

第2関門に到着。

関門時間は11:20。

まだ2時間26分あるけど、サブ10を目指している身としては時計の数字のほうが気になる。

水だけささっと補給して、すぐにエイドを飛び出した。

この先このペースを維持できるのだろうか?

ふと、そんな不安が胸の奥に湧いてくる。

自分で決めた挑戦なのに、どこかで弱気になっていた。

50kmを迎えようとした時、前方に妙に存在感のある……ウサギ?

いや、ウサギの着ぐるみを着た人間だ。

あの立ち姿、あの圧倒的存在感——間違いない、じゅんさんだ!

富士五湖ウルトラで応援してもらった以来の再会である。

テントの下には、えっちゃんの姿も。

知ってる人がいてくれる。

それだけで、嬉しい気持ちになるのだ。

「食べていくーーー?」

元気な声が響く。

下を見ると、そこには宝石みたいに輝くスイカが。

ひと目で心を奪われた。

「冷たい大福もあるよー」

と差し出してくれたが、私の気持ちはもう決まっていた。

「スイカをいただいても……?」

「どうぞー」

口に入れた瞬間、心が反応した。

うまっ……。

沁みる。

沁みすぎる。

ジェルの甘さからの解放。

スイカって、こんなにもうまかったっけ?

脚が回復する。

体も軽くなる。

こんな出会いがあるから、ウルトラはやめられない。

「ありがとう」

感謝の気持ちをこめて手を振った。

そしてまた、一歩一歩、前へ進んでいく。

50km~70km

50km

9:23(スタートから4時間53分)

サブ10の貯金は7分。

まだいける。

夢の中に片足はギリ突っ込めている。

、、、。

正面から赤い人がスーッと近づいてくる。

よく見たら若ちゃんだった。

応援のため愛知から来てくれていたのは知っていたが実際に姿を見ると、やっぱりうれしい。

「調子はどう?」

「まあまあ。まだ生きてる」

そんなやり取りをしていたら、

「はいっ、みつくん、これ」

渡されたのは、キットカットだった。

その包装に書かれていた文字が最高によかった。

【キット、イケる!】

お菓子の言葉が、こんなにも強く背中を押すことがあるなんて。

疲れていたはずの脚が、また少し軽くなったような気がした。

60kmも、70kmも、その先も。

自分らしい走りがキットできる、そう思えた瞬間だった。

今後誰かを応援する時は私もぜったいにメッセージを書こう。

キットカットでも、カントリーマアムでも、何でもいい。

【キット、君ならやれる】とか。

そういう言葉が、誰かの50km地点で、そっと背中を押すことがあるんだと学んだ。

ここから2kmは坂道。

前を見て「うわ、来たな」と思ったが、意外と脚は動いた。

歩くランナーもちらほら見かけたが、ほとんどの人が走っていた。

「行ける、行ける。」

声には出さないが、心の奥で呟きながら自分をそっと励ます。

誰にも聞こえない声だけど、それが一番効く。

坂を登り切ると今度は下り。

フラットの方が記録は狙えるのだろうけど、私は平坦が続くのがけっこう苦手でもある。

ずっと同じだと飽きてしまうから。

坂があると、風景も、気分も、リセットできる気がするのだ。

前方にトンネルが見えた。

車で通る時もどこか非日常を感じるけど、それを“走って”通るとなると、特別感が増す。

あの暗さ。

あの音が反響する感じ。

オレンジ色の照明に包まれて、一瞬世界が内側に閉じる。

外の風景も音も全部シャットアウトされ、ただ自分の足音だけが残る。

そんな空間が、私は密かに好きだ。

55km

トンネルの出口が見えた瞬間、外の光がこちらに差し込んでくる。

あの光の先に何があるのだろう。

まだ見ぬ風景を思い、脚がまた動き出す。

トンネルを抜けるとしょうごさんを発見。

「がんばってがんばって、、、まだ行ける?」

「けっこう疲れてきた」

「まだまだ行ける行ける!行ったれーーーー!」

力強い声で背中を押してくれた。

しょうごさんの声は気持ちがこもってるから元気をもらえる。

次に登場したのはひまわり姿のデラさん。

「がんばって」――その一言が脚を軽くしてくれる。

2人とも応援ありがとう。

しょうごさんの応援

道はのどかで、まっすぐ。

ああ、もうすぐだ。

高山のお祭りエイド、丹生川まで。

風に乗って、うっすらと吹奏楽の音が聴こえてきた。

耳が喜んでいる。

疲れているはずの体が、少し弾んだ。

いよいよだ、飛騨牛まで。

地下道を抜けたら丹生川エイド。

走りながら、自然と笑みがこぼれていた。

けいこさんとあきちゃんだ。

知ってる顔に出会えると、それだけでエネルギーがチャージされる。

続いて現れたのは、さかみさん。

手にしていたのは、だいぶ本気な水鉄砲。

「かけてもいいですかー?」の声に、首を差し出すと、まあまあの水圧で水が放たれた。

暑さにやられかけていた身体に、その水はひやりと沁みて生き返るようだった。

そのあとは、あつしさんご夫婦が応援してくれた。

竜の被り物。

なんて楽しげな応援だろう。

思わず笑顔になってしまう。

さらに、みかさんの姿もあった。

日々の練習投稿に、いつも勇気をもらっている。

知ってる人たちが、こんなにもたくさん。

声をかけてくれて、笑顔を向けてくれて、背中を押してくれる。

気づけば私は、応援されっぱなしだ。

こんなにも幸せが続いていいのだろうか。

さっきまで感じていた疲れが、スッとどこかへ消えた気がした。

さかみさんの応援
あつしさんの応援

57.2km

10:10

第3関門、丹生川支所に到着。

実はここまでの15分、お腹の痛みにずっと耐えながら走っていた。

漏れることはないと信じつつも、正直ギリギリだった。

だから私は決めていた。

ここに着いたら、まずはじめにトイレへ行こうと。

飛騨牛エイドが目に入ったけれど、その反対側に見えた「お手洗」の文字は、まさに砂漠の中のオアシスだった。

建物内にあるしっかりしたトイレに滑り込んだ瞬間、心から思った。

ああ、間に合ってよかった。

気持ちを切り替えて、給食エリアへ向かうと――まさかのひろよさんと再会した。

えっ、どういうこと?

30km地点でDNFかもしれないと言ってたのに。

目の前に立っている光景が信じられなかった。

聞けば途中から少し復活したらしい。

うれしかった。

ひろよさんが元気になったこと。

そして、また一緒に走れることが。

この丹生川エイドだけは、スタート前から「楽しむ」と決めていた。

しそジュースは、優しい酸味が喉を通るたびに身体を癒やしてくれる。

みたらし団子は、香ばしい醤油の風味と団子のもちもち感がたまらない。

暑い日のトマトそうめんは、まるで水のように食べやすく、何杯でもいけそうだった。

そして、飛騨牛。

とろける脂、口に広がる旨味。

こんないいお肉がエイドで食べられるなんて。

贅沢すぎる。

しかも吹奏楽の生演奏付きで、ミスト扇風機まである。

これほど満ち足りた気持ちになるなんて。

ただ、時計のことは頭の隅にあった。

サブ10。

その言葉が頭の片隅でくすぶっていたけれど――

このエイドを飛ばすなんて、どう考えても無理だった。

いろんな大会にこれまで出てきたけど、ここが、たぶん私のナンバーワンエイド。

この場所は、確実に「特別」だった。

みかさんの応援

エイドを出発した。

長く楽しんでしまったけれど、時計はまだ私にチャンスを与えてくれていた。

60km

10:29(スタートから5時間59分)

サブ10の貯金は、わずか1分。

でも、残っていただけで十分だった。

あれだけ満喫したのに、まだこの位置にいられたのだから。

ここからはついに千光寺の激坂がはじまる。

去年も走ったから、きつさはよく知っている。

「走る?歩く?どうする?」と心の中で対話しながら進んだ。

71kmと100kmの分岐では、自分の意思でちゃんと右へ曲がる。

ぼんやりしていたら前の人について行ってしまい道を間違えるので。

疲れているときこそ、自分で判断する。

これとても大事なこと。

過去にコースロストした経験が数回あるから。

並走していたひろよさんが前へ。

「ここからは各自のペースで」と声を交わし、私は後ろからその背中を追いかけた。

苦しくても、誰かが前にいるとがんばれる。

しばらくの間、黙々と坂を上っていると、再びひろよさんに会えた。

その横にはまさとさん。

どうやら知り合いらしい。

しばらくすると「この先に父がいるのでアクエリを飲みましょう」とまさとさんが言った。

えっ?

千光寺の激坂にお父さん?

そんなバカなと思いながら歩いているとスペースに赤い車が一台。

本当にいた。

まさとさんのお父さん。

車から出てきて、にこやかに笑ってくれた。

ここでいただいたアクエリアスは、想像を超えるうまさだった。

ウルトラでは、こういう「小さな奇跡」がたまに起きる。

偶然のような必然のような。

つながりの強さを実感する時間がウルトラではけっこう頻繁に起きるのだ。

赤い屋根が見えたとき、坂の終わりが近いことを身体よりも先に心が感じ取った。

三味線の音が静かに空に響いて、走ってきた時間がやわらかく包まれていくようだった。

極楽門。

その名前のとおり、門の上には色とりどりの絵が描かれていて、ふと足を止めて見上げた。

ウルトラの道中で、こんな静かな感動に出会えるなんて。

目の前には108の石段。

数を数えずに、駆け足で登っていく。

息が上がるたび、心は静かになっていく。

一段一段を踏みしめて進む。

苦しさと、静けさと、再会。

千光寺は、ただの“坂の終点”ではなかった。

物語のひとつの“クライマックス”だった。

千光寺は登りがきつい。

でも、実はそのあとの下りもなかなかに凶暴なのだ。

「いやいや、ここ急すぎん? なんでこれ、誰も騒がないの?」と心の中で誰かに問いかけつつ、前ももへの衝撃と闘っていた。

飛ばしすぎたら終わる。

でもブレーキをかけすぎても終わる。

答えのない問題に向き合いながら、私は静かに走っていた。

……なんだろう、この落ち着かなさ。

足は動いてるのに、気持ちがどこかへ行ってしまいそうな感覚。

「あ、これだめなパターンのやつだ」

経験があるからこそ分かる、じわじわと襲ってくる“もやもや”の波。

ポーチに手を伸ばし、田中くんにもらった塩トマトを取り出す。

塩分補給?

いや、これは祈りに近い。

ひと粒の塩トマトに、練習の日々や、富士五湖で流した涙や、笑い声が詰まっている。

「こっからだよ、まだいけるから!」

そう言ってくれる田中くんの声が、遠くから聞こえてきた気がした。

一口で、目が覚める。

ああ、まだ走れる。

いや、走りたいと思えてる。

それだけで、また一歩が踏み出せる。

塩トマト、すごい。

ピントが合ってない。

65.8km

長かった坂を下りきると、エイドがぽつんと現れた。

水を補充してさて何か食べようかとテーブルを見渡す。

が、どれもピンとこない。

甘いものもしょっぱいものも、一応チェックはするけど手が伸びない。

暑さのせいだろうか。

いや、確実に暑さのせいだ。

その証拠に、視線は自然とエイドの反対側に吸い寄せられていた。

バケツにひしゃく。

もう、この並びだけでテンションが上がる。

ひしゃくを手に取り、まずは首元に――じょぼぼぼぼ。

「ふぅーーーー」

あまりの気持ちよさに、思わず変な声が出る。

そしてもう一杯。

今度は頭から。

たったそれだけのことで、生き返る。

エイドのグルメには目もくれず、私はひしゃく片手にご満悦だった。

こういうのを“幸せ”って言うんだろうなぁ。

ウルトラって、たまにこういう原始的な幸福に気づかせてくれる。

70km

11:45 (スタートから6時間15分)

サブ10の貯金、マイナス15分。

ああ、終わった。

正直、もっと悔しい気持ちになると思っていた。

でも意外と、冷静だった。

はじめからギリギリの挑戦だってことは分かっていたから。

ほんの少しでも何かが噛み合わなければ、それまでだということも。

「仮に70kmがゴールだったら、7時間切れたかも」なんて考えてみたりもしたけれど、それはタラレバの話。

本番は、まだ30kmもある。

まだまだ終わらない。

ここまでの選択を後悔しているか?

いや、そんなことはない。

そのときそのときで自分が一番いいと思ったことを選択してきたから(間違いも含めて)。

問題はここから。

残り30km。

自分は何のために走るのか。

心の中にちゃんと“理由”を持ってないと、潰れるってわかってる。

だから一度、心を整えよう。

残された時間の中で、自分にできることをきちんと選んでいこうと思った。

70km~80km

70km

ある意味、高山はこの区間が一番つらいんじゃないかと思える。

ここからの10kmは平坦が続くからか、それとも現在70kmという距離だからかよく分からないがとにかくメンタルに応える。

坂じゃないから歩くわけにもいかないし、フラットだからそれなりのペースで走りたいし。

いろんな葛藤と戦わなければいけない。

サブ10の夢は途絶えたけど新たな目標、去年の自分超え(11:41:38)の挑戦は続いている。

苦しいけど脚は止めたくない。

去年の自分に勝ちたい。

言葉の力で自分を勇気づける。

もうここからは気持ちで走るしかないのだ。

72km

おーーーーー。

前から現れたのは田中くん。

本日2回目の登場だ。

1回目もそうだったし今回もそうだけど「一番応援してもらいたい場所」で現れてくれるんだから、もう……さすがとしか言えない。

まじでありがとう。

しばらくの間会話しながら並走してくれた。

「これ、サブ10ギリギリでしょー?」

「いや、もう70kmで15分オーバー」

「えええぇぇぇーーーー。」

話すことで肩の力が抜ける。

なんだかんだひとりで走ってると力が入っちゃうんです。

会話の内容がどうこうっていうより、「誰かがそばにいてくれる」ってことが今の自分には何よりありがたかった。

横で一緒に走ってくれる。

話した言葉に返答してくれる。

それだけでもう十分だった。

がんばれーでもないし、まだいけるでもないし。

この70km~80kmは寄り添ってくれることが一番の応援なのかもしれないと思った。

74.1km

12:09

第4関門 国府B&G海洋センターに到着。

関門時間は14:50

「ちょっと取ってくる」

田中くんがそう言って、車のほうへ向かった。

私はといえば、まず目に飛び込んできたミスト扇風機にふらふらと吸い寄せられて行った。

あれ、効果えげつないんですよ。

何なんですか、あの幸福兵器。

扇風機から霧がぶわぁーーーー。

その一瞬で、世界が天国に切り替わった。

ウルトラ→暑さ→ミスト→無条件降伏。

これはもはや公式。

反論の余地なし。

目を閉じて、しばらく霧のなかに身を置く。

冷たい霧が皮膚に触れるたびに疲労が溶けていく気がした。

続いてバケツにひしゃく。

この組み合わせ……最強でしょ。

レバニラとか豚キムチとか、たまごかけごはん、生ハムメロン、イチゴ大福——

あの有名タッグたちと並ぶか、それ以上か。

それくらい名コンビ。

まずは首に一杯。

ぶへぇーーーーーーーーー。

やばい。

続いて頭からもう一杯。

ひょえーーーーー。

幸せすぎる。

気付けば、目の前には田中くんが戻ってきていた。

「気持ちいい?」という問いかけに

「超気持ちいいーーーー」とあの北島康介さんの名セリフが自然に飛び出した。

金メダルを取った時って、もしかしてこんな感じだったんじゃ……

いや、それは冗談です。どうかお許しを。笑

ひしゃくのひとすくいが、命を繋いでくれる。

これはもはや“補給”じゃなくて、“生き返り”。

ありがとう、バケツ。

ありがとう、ひしゃく。

この世の水に感謝した。

超きもちいい~

田中くんの手には、エアーサロンパスとパイナップル。

そうだ、事前にリクエストしてたんだ。

まずはパイナップル。

袋を開けて、スプーンですくって口元へ運ぶ。

うまっ。

甘いとか、冷たいとか、そういう感覚の前に胸がいっぱいになる。

事前に聞いてくれたこと。

用意してくれたこと。

この場所まで届けてくれたこと。

ひとつひとつがパイナップルの甘さに重なって、心まで満たされた。

そこへひろよさんも再合流。

ふたり並んでふくらはぎにシューーーッとエアーサロンパス。

たぶん今のこの映像、CMで流したらいい感じに伝わるはず。

そんな気がした。

疲れきった体に、沁みるスースー感と仲間のやさしさ。

幸せってこういうことなんだと思った。

ありがとう。

心からそう思った。

残り26km。

もう少しだけ、がんばれる。

二人とも手を上げて感謝を伝えながらエイドを出発した。

75km

周りの景色と自分のペースが完全に同化してきた。

前にも後ろにも、ぽつんぽつんとランナーがいるだけ。

誰とも交わらない。

もう集団で走ることはないんだなと思った。

踏切の音が遠くで鳴っていた。

カンカンカン――。

どんな電車だろう。

何両編成で、どこまで行くのだろう。

見慣れない土地で電車を見るのってなぜか心が和む。

あー、旅してるなって思う。

変わらない風景の中を、ひたすら足だけ動かす。

進んでいる実感が持てないまま、足を止めずにいたら小さなエイドが見えてきた。

ああ、ちゃんと前に進んでいたんだとホッとする。

次の電柱。

次の信号。

次のエイド。

目に見える、小さな目標をひとつずつ追いかけていく。

80km

時計を見る。

12:52 (スタートから7時間22分)

サブ10まではマイナス22分。

「サブ10」という言葉を意識するのはここまでにしようと決めた。

「よくここまで来たよ」

誰にでもない自分に、そう声をかけた。

ここから先は自分との勝負。

悔いのないよう最後まで走ろう。

脚は限界。

胃は不調。

ジェルはもう口が受け付けてくれない。

気力だけで走る20kmが、始まった。

80km~90km

80km

太陽は分厚い雲の向こうに隠れていた。

直射日光はないのに、湿った空気が肌に貼りついて離れない。

気温は26℃。

数字だけ見れば、決して極端な暑さではない。

1週間前の高山よりはマシか?と思うが、もうジェルを受けつけない状態。

味も匂いも、身体が「もういらない」と言っている。

力が出ない。

脚がフラつく。

まっすぐ走っているつもりなのに意識が朦朧としてくる。

あれ、自分ゴールまで辿り着ける?

一気に不安になってきた。

そう思えば思うほど焦りが出てきて冷静さを保つことができない。

84km

視界の先に、分岐の看板が見えてきた。

いやいや、この案内表示小さくない?

ここを通過するランナーはもうみんなヘロヘロだよって思った。

前にいるのは2人。

ぼーっとしてたらうっかり間違えそう。

私は以前コースを違えたことがある。

そう、痛い目を見た。

だから今回は慎重に……慎重に……

右!100kmは右!

学習したのだ。

過去に分岐を間違えて地獄を見た経験があるから、こういうところだけは慎重なのだ。

自分の目でしっかり確認して進路を変えた。

振り返り71kmの方を見る。

あっちは、もうすぐゴール。

そう思うと、ちょっとだけ羨ましくなる。

100kmの人はみんな同じことを思ったんじゃないかな。

100kmを選んだ者には、まだ終わりは訪れない。

おそらく、ここを通る誰もがそのことを理解している。

ゴールまでの道が、決して甘くないことを。

この先、ラスボスが控えている。

最後の試練を前に、足を止めるわけにはいかない。

せめて気持ちだけは折れないように。

何度もそう言い聞かせながら、また一歩踏み出した。

ここから先、道はじわじわと登りはじめた。

80kmから90km。

この区間も、とにかくきつい。

脚の痛み。

身体の重さ。

そして、正体のわからない孤独感。

もはや修行だ。

ひとたび負のループに入ると、そこから抜け出すのは至難の業。

「何のために走っているのだろう?」

「そもそも、100kmなんて走る必要あったのかな?」

そんな雑念が、頭の中でぐるぐると回り始める。

周りには人の姿がない。

車もほとんど通らない。

まるで、この道に自分ひとりだけ取り残されたような錯覚に陥る。

気づけば視界も心も少しずつ曇っていった。

——そのときだった。

前方にひとつの人影が見えた。

若ちゃんだ。

途中でキットカットをくれた、あの若ちゃん。

まさか、こんな場所で――。

手にはエアーサロンパス。

「みつくん、大丈夫? どこかかけて欲しいところある?」

その声に、ふっと肩の力が抜けた。

何をどうすればいいのか分からなくなりかけていた私はその一言に救われた。

「ふくらはぎと、もも裏をお願いします」

シューーーーーーッ。

この音がまた癒し。

身体にこびりついていた重苦しい疲労とモヤモヤが溶けていく。

ありがとう。

本当に、ありがとう。

こんなところで、こんなふうに助けてもらえるなんて。

人の優しさが、心の奥深くに沁み渡っていった。

88km

目の前に立ちはだかる、“ラスボス”の坂。

去年も経験した。

知ってる、きついのは。

けれど、またしても心が折れそうになる。

「なんでこんなにキツイの」

出てくるのは、ため息と弱音。

30歩走って30歩歩く。

これが今できる全力だった。

リズムも余裕も、もうとっくになくなっていた。

若ちゃんとの会話は次第に減り、やがて無言になった。

でもその沈黙のなかに、確かなものがあった。

横にいてくれる。

それだけで心は折れなかった。

無言でも、人は人を支えられるんだと思った。

ようやく坂を登りきる。

何度走ってもこのきつさには慣れない。

もしひとりだったら、きっと全部歩いていたかもしれない。

「ありがとう」

心の中で何度も唱えていた。

そして坂を下ったところに「90km」の看板が立っていた。

残り10km。

体はすでに限界に近かった。

エネルギーが足りていないのか、それとも単純に疲れているだけのか。

とにかく前へ進むことだけに全神経を注いでいた。

90km~ゴール

90km

坂を下りきると、道の駅が見えてきた。

並走してくれた若ちゃんとはここでお別れ。

約5km一緒に走ってくれた。

この区間は本当にきつかった。

胃のむかつき、身体のだるさ、意識が遠のきそうになる瞬間。

そんな中、隣に誰かいてくれるだけであんなにも心強いなんて。

ありがとう。

それしか言葉が出なかった。

一瞬、振り返る。

手を振る。

そしてまた前を向いた。

残り10km。

今度は自分ひとりで進む時間が始まる。

93.3km

14:49

第5関門 公文書館に到着。

関門時間は17:30

関門時間なんて、もう気にしていない。

水は補給する。

でもジェルを口に運ぶ気にはなれなかった。

エネルギーは確実に足りていない。

摂ろうとしても身体が拒絶する。

私は無理やりにでも口にできるタイプだったはずなのに、、、。

レースの終盤、必要とあらば気合で飲み込んできたのに、、、。

でも今回は無理だった。

唯一食べたいと思えたのがフルーツ。

他は何もいらない。

オレンジの瑞々しさだけが、私の味方だった。

どうか、ゴールまでもってくれ。

祈るような気持ちでまた足を進めた。

95km

周囲にはぽつぽつとランナーがいるだけ。

前の人を目印にして、それを見失わないように。

もう気合いとか根性とかそういう段階じゃない。

気力で身体を前に押し出していた。

残り4kmの案内板。

その横にかぶり水のバケツが置いてあった。

もちろん、相方のひしゃくも。

これまで何回も助けてもらった名コンビ。

ひしゃくを手に取り、首筋へ水をかける。

――ああ、生き返る。

もう一杯。

今度は頭から。

フヘーーーー。

キンキンに冷えたビールを飲むのと同じくらいの幸せだった。

残り3km

頭の中で、「あと3km」と唱えながら進む。

100kmの旅も、いよいよ終わりが見えてきた。

今回のレース、私は“サブ10”を目指していた。

でも、その「本気度」を数字で表すなら30%くらいだったのかもしれない。

どこかで分かっていた。

本気になりきれていない自分がいたことを。

言い訳じゃない。

ただの、事実。

自分がいちばん、それをよく分かっていた。

高山ウルトラは、知ってる人も多い。

応援が多くて、エイドも楽しくて、会いたい人がいて。

ブログのために写真も撮りたいし、タイムよりも「楽しさ」に心が向く。

フルマラソンなら、私はレース中写真を一枚も撮らない。

すべてをタイムに注ぐ。

そこに迷いはない。

でもウルトラになると、私の中の「楽しみたい欲」がどうしても勝ってしまう。

その気持ちがある限り今の実力ではサブ10は難しい――そう感じた。

応援してくれる人たちの前を、一瞬で駆け抜けるのもなんだか申し訳なくなる。

それでも――今回は3度目のサブ10挑戦だった。

次、また挑むとしたら。

優先順位を変えてみてもいいかもしれないな。

楽しさよりも、写真よりも、まずは「サブ10を獲りにいく」。

ウルトラを楽しみながら、サブ10。

そんな都合のいい話はやっぱりなかった。

きっとサブ3だって同じだろう。

走り方は人それぞれ。

今の自分はどうしたいのか。

どんなゴールを望んでいるのか。

スタート前にそれを明確にしておくことは、やっぱり大事だと思った。

かつては「完走できればよし」だった。

でも今の私はタイムに挑戦したいと思っている。

「納得できるレース」

たとえそれがどんな結果でも、いちばん誇らしい旅になると思った。

残り2km

脚は痛いし、体はもう限界。

でも、不思議だった。

この100km、ただ疲れたわけじゃない。

走りながらいろんなことを考えていた。

頭で何かを「考える」というよりも、もっと奥――

心の底に沈んでいたものが、静かに浮かび上がってくるような時間だった。

ふだんなら目を逸らしてしまうような問いが、ふと目の前に現れる。

今の自分にとって、本当に大切なものは何なのか。

逆に、もう手放していいものは何なのか。

走る意味。

生きていく意味。

そんな大きな問いが、いつのまにか心の中にあった。

ウルトラマラソンって、ただの長距離じゃないと思う。

これはたぶん、自分自身の中に入っていく旅だ。

たった一人で100kmという距離を旅することで、今の自分とこれからの自分に少しだけ近づける。

うまく言葉にできないけれど、「これからどう生きていくか」――

そのヒントを、私はこの旅を通じて見つけようとしていたのかもしれない。

残り1km

「いよいよだ」――そう思った瞬間、前方に見覚えのある姿が。

あつしさんだった。

丹生川エイドでも応援してくれたけど、まさかこの場所でまた会えるなんて。

キラキラの飾りがついたメガホンが、まるで「ゴール、おめでとう!」って祝ってくれているように見えた。

「あと少しだよ」

その一言に、どれだけ救われたことか。

身体は限界だったのに、心だけがふわっと軽くなった。

おかえり

おめでとう

ありがとう

シンプルな言葉だが、まるで魔法のように胸に染みてくる。

ゴールのアナウンスがかすかに聞こえてきた。

坂を登っていくとユズさんの姿が。

トレランやウルトラで過去に同じ挑戦をしてきた。

その先にはさかみさんの姿も。

知ってる顔に出会えるのは本当にうれしい。

カーブを抜けると視界がひらけた。

ゴールゲートがすぐそこに見えた。

その瞬間に湧き上がってきたのは、小さな感謝だった。

今まで一緒に走ってくれた仲間たち。

これまでずっと支えてくれた人たち。

そして諦めずにここまで来た自分にも。

本当にありがとう。

100kmという距離は自分の深い場所へ降りていく時間だったのかもしれない。

きっと人生も、同じだ。

思い通りにいかない日もある。

歩いてしまうこともある。

それでも進んでいけばちゃんと辿り着ける。

そう思えたことが今回いちばんの収穫だった。

また明日から。

焦らず自分のペースで、走って行こう。

そして、生きていこう。

今回旅をご一緒してくれた皆さま、楽しい時間をありがとうございました。

まとめ

ウルトラマラソンは毎回いろんな気づきを与えてくれる。

サブ10、そんなに甘くなかった。

それが分かっただけでも一歩前進だった。

高山の地まではるばる応援に来てくれたみなさん。

一緒に走ってくれた田中くん、若ちゃん。

それぞれの挑戦を共に戦った仲間の存在。

一人じゃなかったんだと、走りながらしみじみ思った。

笑って、もがいて、誰かの言葉に救われて。

そういう瞬間の積み重ねが、今の私をちゃんと支えてくれている。

人生も案外、ウルトラマラソンと似ているのかもしれない。

うまくいかない日だってあるし思わず止まりたくなる日もある。

それでも足を前に出しさえすればいつか景色は変わっていく。

遠回りした先に、ちゃんとゴールは待っていてくれる。

そんなふうに思えた今回のウルトラ。

また今日から、自分と向き合いながら日々を重ねていこうと思います。

走って、転んで、立ち上がって。

その先にある見たことない景色が待っていると信じて。

次の挑戦は7/13に開催される小布施見にマラソンになります。

仮装で有名なあの大会。

ガチでは走りません。

久しぶりの仮装を楽しみながら初めての小布施を楽しんできます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

このブログが、あなたの背中をそっと押せますように。

おまけ

パワーフード、ありがとう。

翌朝食べる飛騨牛うどんがうまいんです。

去年に引き続き、白の命牛乳。

応援メッセージがうれしい。

打ち上げのビールがうまい!

ご当地ソフトクリーム、おみそれソフト。

【初めて100kmを走ろうとしてる人へ】

Instagramでバズった投稿になります。

記事はこちらになります→

私の三種の神器。
・ファイテンパワーテープ
・ニーダッシュ
・日焼け止め(トップアスリート)

今回のシューズはアシックスのエボライドスピード2。

ウルトラマラソンではエボライドシリーズが一番のお気に入りです。

エボライドスピード2

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