ランナーの頭の中シリーズ、全五話完結になります。
第三話 38km、脚が終わる瞬間
38km。
この距離になると、
ランナーはある違和感に気づき始める。
脚が、
言うことを聞かなくなる。
特に、ふくらはぎ。
ピクッ。
ほんの小さな痙攣。
でも一瞬でおさまる。
ランナーは知っている。
あれは、ただの痙攣じゃない。
予兆だ。
本格的に攣れば、
止まるしかない。
止まれば、
目標タイムは遠のく。
だからこの瞬間から、
ランナーは脚と駆け引きを始める。
ストライドを少し小さくする。
ピッチをほんの少し上げる。
ふくらはぎに負担をかけないよう、
身体の使い方を変えていく。
それでも、
また来る。
ピクッ。
脚の奥から、
警告のような信号。
「あ、危ない。」
そう思った瞬間、
自然とペースを少し落とす。
脚を落ち着かせるように、
呼吸を整えながら走る。
少し走ると、
また動けそうな気がしてくる。
すると今度は、
ほんの少しだけペースを上げる。
またピクッときたら、
少し緩める。
そしてまた、
少しだけ上げる。
その繰り返し。
38kmのランナーは、
ただ走っているわけではない。
脚と交渉しながら走っているのだ。
周りを見ると、
太ももに手をあてて痛みをこらえている人や、
歩き始めてしまったランナーもいる。
それを見ると、
思う。
次は、自分かもしれない。
でも同時に、
もうひとつの声が聞こえる。
「いける。」
そしてもうひとつ。
「諦めるな。」
38km。
ここは、
ただ苦しい場所じゃない。
脚が終わるかもしれない恐怖と、
それでも前へ進もうとする覚悟がぶつかる場所だ。
フルマラソンは42.195km。
ランナーは知っている。
ゴールが近いから楽になるわけじゃない。
むしろ、
一番厳しい瞬間がやってくる。
それが
38km。
脚が終わるかもしれない、
その境界線だ。
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