ランナーの頭の中― その瞬間、何を考えているのか②

実体験談

ランナーの頭の中シリーズ、全五話完結になります。

第二話 35km、ランナーが無言になる理由

フルマラソンには、不思議な地点がある。

35kmを過ぎたあたりから、
周りのランナーが急に静かになる。

それまで聞こえていた会話が、消える。
足音だけが、規則的に響く。

みんな、無言になる。

それはなぜか。

答えはシンプルだ。
自分の体を必死で操縦しているから。

35kmを過ぎると、体は明らかに変わる。

足と体は、どんどん重くなる。

それまで当たり前のように続いていたフォームが、
少しずつ崩れ始める。

ストライドが小さくなる。
ふくらはぎがピクピクと痙攣し始める。

それまで、
力を入れなくても前に進んでいた体が、

自分で力を入れないと進まない体に変わる。


腕振りと足のタイミングが、
なんとなく噛み合わなくなる。

リズムが崩れる。

そして、
どんなリズムが正解なのか、
分からなくなってくる。

右足に意識を向けると、
今度は左足のバランスが悪くなる。

左を整えると、
また右がおかしくなる。

まるで壊れかけた機械を
必死で動かしているような感覚。

自分の意思と、脚の動きがほんの少しズレる。

時には、
もう操縦不可能なんじゃないかと思う瞬間すらある。

この時間、
ランナーの頭の中はとても忙しい。

フォーム。
補給。
ペース。
痛み。

そして何より、

体の使い方。

どう腕を振ればいいのか。
どう足を運べばいいのか。

一歩一歩を、
意識して作り直していく。

そんなとき、
頭の中で聞こえてくる言葉がある。

「いける。」

「諦めるな。」

誰かに言われたわけじゃない。

でも、
確かに自分の中から聞こえてくる声。

その声に背中を押されながら、
ランナーはまた一歩を踏み出す。

だから、
35km地点のランナーは静かになる。

苦しいのはもちろんあるが、それだけではない。

全神経を、
走ることに使っているから。

体をどう動かすか。
この一歩をどう進めるか。

ただそれだけに、
すべての意識を集中させている。


フルマラソンは42.195kmだけど、

本当の勝負は、いつも35kmから始まる。

次回第三話、【38km、脚が終わる瞬間】

ランナーはこの先、
避けることのできない“ある感覚”と対峙する。

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